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セロトニン道場代表 有田秀穂氏へのインタビュー

不眠症、うつ病を克服したい方々に対するアドバイス

〜日頃から気をつける習慣と休職時の適切な過ごし方〜

有田秀穂代表ポートレート画像

 はじめに

このインタビューは、日本におけるセロトニン研究の第一人者である東邦大学医学部統合生理学教授有田秀穂氏に寄せられた「不眠症」や「うつ病」に関する質問や実話に対して、有田秀穂氏に、2011年9月15日現在の研究結果を踏まえて答えていただいたものです。

 「不眠症」や「うつ病」になりやすい環境

質問者:変化の早い世の中で、ストレスやプレッシャーから不眠症やうつ病にかかる人が増えていると聞きます。このような質問をしている私自身も恥ずかしながら、数年前に患ってしまいました。

有田:辛い時間でしたね。何が原因だったのですか?

質問者:当時、IT系企業で管理職をしておりまして、新人が多く在籍する営業部門でスタッフを管理しながら、目標を達成しなくてはならない立場にありました。上司は「気合と根性で全てが解決できる」を信条とする体育会系の方でしたので、パワーハラスメントの毎日でしたね。朝9時には出社して、終電、就寝するのが午前2時前が普通で、月に「休日」と言えるような日が3日程度でした。

有田:たいへんでしたね。周りにも辛い人が多かったのではないですか?

質問者:確かにそうですね。突然会社に来なくなる人も多いように思いました。会社の急成長期には、1年間で7割くらい社員が入れ替わっていたのではないでしょうか。先生、実際にこのようなことは日本全国で起きているのでしょうか?

有田:はい。そのような話はよく聞きます。特にIT関係の人たちは、仕事の形態として、間違いなくパソコンを1日中使い続ける仕事をしています。時代の流れからすると最先端の仕事になるのですが、そのような仕事の形態が、実は「うつ病」「不眠症」「キレやすい体質」の原因になっているのが重要なポイントと言えますね。

有田:つまり、現代のしわ寄せといいますか、まじめに仕事をすればするほど、生活習慣病的に「うつ病」や「不眠症」になり、「自分に合わない」ということに気がついて、休職や退職になる方が多いように思います。確かに、会社がいろいろと職場環境や制度を整えて、働きやすいように心がけても、仕事の形態そのものが働いている方にとって問題があることを、本人が薄々気づいているのではないでしょうか? 仕事そのものは最先端で創造的であっても、身体的、精神的にキツイと思ったら、転職することも選択肢の一つだと思います。

質問者:うつ病や不眠症に悩んでいる人は、IT関係の他にどのような職業で多いのでしょうか?

有田:マスコミの人たちは、夜仕事をするという形態が昔からありますよね。今もその形態は変わらないようで、夜仕事をする生活スタイルを続けているうちに、いつの間にか心のバランスを崩してしまうケースを、多数目の当たりにしています。

質問者:そうしますと、時間的な問題ですとか、仕事環境に問題があるのでしょうか?

有田:まさに、現代生活が急激に変わったのは、ここ2,30年のことで、パソコンが導入されたことと勤務形態の変化が大きいですね。なかでも夜勤を一時的にするということではなくて、夜勤が常態化して夜働き続けてしまう「夜勤」だけの生活を送っている方もいるということです。そのあたりに問題が出てくると考えます。

質問者:といいますと?

有田:そのような生活を続けていると体も心もおかしくなってくる。「疲れがぬけない」といった体調不良から、「キレやすく」なったり、「勤労意欲が低下」するなどの「うつ症状」がでたりします。

質問者:そうすると、そのような業務に就かれている方で苦しんでいる方は、多いかもしれませんね。

有田:そうですね。

 「不眠症」や「うつ病」で休職した時の適切な過ごし方

質問者:
私自身は、会社の手続きを経て数ヶ月間の休職をしたのですが、その際にお世話になった医師からは、「休め」と言われるだけで、実際に会社を休んでいる期間に「どのように休めはいいのか?」を指導されることはありませんでした。確かに、最大のストレス要因である会社勤務はないのですが、休職し始めて一定時間経過したある日、「自分が自分でないような、半ば絶望的な感覚」に気づきました。「うつ病」を克服し、回復させるためには、「薬だけに頼らない」こと、生活そのものを変える必要もあるかと思うのですが、「うつ病」や「不眠症」で悩んでいる方、休職中の方に、回復に向けての効果的な時間の過ごし方などございましたら、アドバイスをいただけますか?

有田:そこが一番のポイントですね。今おかれているストレス環境から、まずは離れることです。仕事に例えると仕事を休みなさい、休職しなさいということが言えますね。ただ、かかりつけの医者の側で、「どのくらい休めば、どこまで回復する」という基準や経験を持っていないのが、ほとんどではないでしょうか? そこで回復するために患者さんに対して何がされるかというと、薬が処方されて、「ストレス環境から開放されなさい」と指導されるのが、通常されることなんだけれども、ただし、「それだけでは治らない」ということに知ってもらいたいですね。

質問者:といいますと?

有田:セロトニン神経を活性化するような、積極的な働きかけをしない限り治らない。「薬が治してくれる」という思いで薬を飲んでいるだけでは、「不眠症」や「うつ病」は克服できないという認識が重要ですね。実際に1年、2年という長期間、休職している方々が現実的に多数いるんですよ。その間、間違いなくストレス環境から離れている訳ですが、そのストレスが1年、2年と休職している方に対して影響を与え続けていることは、医学・生理学的には考えられないのですよ。

質問者:そうなんですか?

有田:そうです。ですから、「薬に頼って、ただストレス環境から開放されるだけでは治らない」という事実に気がつくべきなのです。

質問者:確かにそうですね。

有田:では、どうすべきか。自己管理として「自らのセロトニン神経を活性化させる何らかの行為」をしなくてはならない。しかし、医者の側で「何をしなさい」ということをしっかり指導している方は少ないのです。まさに「セロトニン道場」で行われているような「セロトニン活性のための行動」を指導する、またはサポートすることが不可欠だと思うのですが、それを基礎的な情報提供から指導までをしっかりと行う施設は、残念ながら「セロトニン道場」を除いて存在しない状況なんですね。

(注)セロトニン道場で行われている「セロトニン活性化」に関しては、こちらをご覧ください。

質問者:「うつ病」や「不眠症」を克服するために、セロトニン神経を活性化させることはわかりました。私事なのですが、私の友人は「うつ病」で休職した際に、仕事のストレスから開放されて、自由でヒマな時間が多くなったということで、気になっていた「DVD視聴」や「TVゲーム」を1日中、部屋のなかでしていたと聞きました。

有田:それは一時的にはいいかもしれません。しかしそれは、その人が「うつ病」だとか「不眠症」だとかにおかれている立場であれば、全くの逆効果になりかねません。「ただ休めばいい」という形で、「DVDを見る」とか、「温泉に行く」とか「旅行する」とか、そのようなことで解決できるのであれば、苦しみから抜け出すために薬を飲んでいる多くの人たちが、簡単に改善しているはずなんですよね。

質問者:確かにそうなりますよね。

有田:実際にそうならないのは、3ヶ月以上の期間、積極的にセロトニン活性のための生活をしていないからです。毎日30分間、ウォーキングをするなどをして初めて自己管理ができる。「ただ休めばいい」のではなくて、「セロトニン活性」を心のリハビリテーションとして、それなりの指導者の下でやり続けることが重要だと思います。

(注)「セロトニン」と「メラトニン」、「活性酸素」と「老化」に関しては、こちらのページをご覧ください。

 「セロトニン道場」は、セロトニン神経を活性化させる全国唯一の施設

質問者:
有田先生が代表を務められている「セロトニン道場」ですが、簡単に説明をお願いしてもよろしいでしょうか?

有田:まず、セロトニン活性のためのキーワードは、3つあるんです。

   1:太陽の光
   2:リズム運動
   3:人と人とのふれあい(グルーミング行為)

このような要因を日常生活のなかに取り入れるには、専門家の指導を受けるのが一番ですね。具体的には、リズムの運動のなかで私の研究結果からオススメするのは、まずウォーキングです。ただ歩けばいいというのはポイントではなくて、そのあたりの指導はセロトニン道場の師範の先生がしてくれますし、また、セロトニン活性において重要な呼吸法の先生(丹田、ヨガ、歌など)もおりますので、様々な面からリズム性運動の指導者の方がいることもポイントですね。

グルーミングについては、スキンシップに相当しますので、そのための技法として、様々なものがあります。例えば、タッピングタッチやアロママッサージ、音楽とスキンシップを組み合わせた先生もおります。自分に合ったもの、継続可能なものを選び取って、指導を受けながら3ヶ月間続けてもらい、効果を出してもらう。セロトニン道場は、その道の第一人者の方々が協力してもらっているので、私としては自信があります。

 定期的に専門家が評価し、改善を試みているから克服する方が多い

質問者:
確か、有田先生も直接面談を行われるのですよね?

有田:そうです。もちろんこれは、心のリハビリテーションの指導者がいると同時に、どの病院でも主治医がいるように、その役目を私が行っています。今現在の、参加者の症状や重症度をまず最初に評価して、意識改革をしてもらうこと。それと同時に、定期的に面接を受けてもらって、参加期間中に「上手くセルフケアができているのかどうか」を評価する体制をとっています。

質問者:そうすると、コースを受講するだけでなくて、定期的に先生が評価し、改善を試みる体制が整っているということですね。

有田:定期的といっても、人それぞれ期間は違いますが、評価をしながら良くなるところまで指導していくのがセロトニン道場の理念でもあります。

質問者:「不眠症」や「うつ病」で苦しまれている方も、どこかの病院で指導を受けていると思うのですが、薬を続けながらも通うことは可能なのでしょうか?

有田:そこは最も重要なポイントですね。いきなり薬をやめて、セルフケアのトレーニングをする乱暴な指導は行いません。薬をどのように減らしていくか、減らした後、やめた後に、セロトニン活性を、いかにうまく自分の生活習慣のなかに取り入れていくかが、最も重要ですから、
    ・どのように薬をやめるのか?
    ・薬をやめるまでの時間
    ・やめた後の評価     を統合的に考えないと失敗してしまいます。

質問者:医師から「うつ病」や「不眠症」と診断された場合、本人だけで回復を試みることは、自身の経験上たいへん難しいのではないかと思います。セロトニン道場では、そのあたりはいかがなのでしょうか?

有田:もちろん、家族の協力なしではありえないので、ご本人だけでなくて一緒に生活されている家族、私の指導とチェック、それに師範の先生方の実技がうまく組み合わさって、進んでいく必要があります。軽い症状の人は、1、2ヶ月で治ってしまう人もいますが、長く休職していた人は、半年から1年くらいをかけて、ゆっくりと薬をやめたり、生活指導の方も時間をかけて行っていくしかないと思います。つまり、そんなに簡単に治らないという認識は重要です。

質問者:いろいろと個人の症状や段階によって対応は異なると思いますが、セロトニン活性講義や実技の他には、何か指導をされたりしているのでしょうか?

有田:「不眠症」や「うつ病」で苦しんでいる人との面談では、薬のなかでも最初に「睡眠薬」をやめましょうと、まず指導しています。要するに「よく眠れる」というところがポイントなので、「不眠症」を克服することが重要です。その際、必ず「どうしたら眠れるんですか?」という質問を受けます。多くの人は眠れないとですね、必ず睡眠薬を利用したり、アルコールを深めに飲んだりすることを考えたりするのですが、そのような方法に頼らずに、不眠症を克服するところから開始します。なぜなら、今までの経験から比較的簡単に「睡眠薬」はやめられるからです。

質問者:そうなんですか?

有田:「睡眠薬」を使わずによく眠るためには、睡眠ホルモンである「メラトニン」を夕方から夜にかけて作り出すための指導をします。たとえば、夜暗くなってから「ウォーキング」をするとか、「グルーミング」の行動をするとかです。これらは不眠症には効果的なのです。ここが治療の始まりで、不眠症が改善してくると、少しづつ朝の活動から改善がみられます。この点がポイントです。そして、夕食後になったら電磁波を発するような携帯電話やパソコンなどを遠ざける、使用しないようにしなさいと徹底して指導しています。というのも、睡眠ホルモンである「メラトニン」を電磁波が壊して、眠りを妨げていますから、その結果として、生活のリズムが崩れていくのです。そのようなケースを多数診ていますし、その点が問題なのではないかと思います。

質問者:テレビはどうなのでしょうか?

有田:テレビは近くで観なければ、それほど問題は大きくないと考えられます。

質問者:あと、コーヒーや濃いお茶のカフェインはどうなのでしょうか?

有田:確かに。ただ、眠れない人はわざわざコーヒーや紅茶を飲むようなことはないでしょうから大丈夫でしょう。まずは、身近な携帯電話やパソコンを夕食後に長々と利用しないことでしょうね。

 法人からの相談や依頼も増えている

質問者;
健康実技コースを受講されている方は、比較的短期間で回復されるイメージがあったのですが・・・。

有田:それは、人にも症状にもよります。確かに1,2ヶ月で回復した人もたくさんいます。しかしながら、休職して1年、2年という人が1,2ヶ月ですぐに回復するということはありえませんから、そのような人の場合は同じくらいの期間、1年やそれ以上の期間をかけて職場復帰や正常な状態に戻していくことを考えています。

質問者:現在は休職されている方、個人からの参加が多いようですが、法人からの相談や依頼も増えているそうですね。

有田:そうですね。今は企業も少しづつ経営課題として取り組むようになってきていますから、企業が持っている産業医と私たちの活動が連携して、共同作業ができるのがポイントだと思っています。

質問者:セロトニン活性において、予防の点から考えられた法人向けコースもあるそうですね。

有田:それは、企業研修という形で行っています。病気で苦しんでいる人だけでなくて、個人の能力開発や能力向上を考える際に、役立つ技法にもなりうるのではないかと思っています。特に、呼吸法やセロトニン活性は、人間の能力のなかの「直感」「ひらめき」「感性」の領域に一番近いものですから、そのような領域の能力向上につながりますし、意欲や集中力といった面にも関係があります。ですから、仕事の準備、業務におけるモチベーションを上げるという活用の仕方もあると聞いています。現在は、企業研修の要望に応じて内容を調整する、などの柔軟な対応をとっています。ぜひ、健康な方の能力開発に活用してもらいたいですね。

 回復には家族の理解と協力が必要です

質問者:
「不眠症」や「うつ病」で悩んでいる当事者のご家族でセロトニン活性に興味のある方に、一言お願いできますか?

有田:「何とかしてあげたいけれど、どうしていいのかわからない」というのが家族の方の本音だと思います。周りの方は、本人に対して「頑張りなさい」とか「こうした方がいい」と言うよりは、少しずつ本人を、悪循環に陥っているところから良い方向へもっていくように促し、頑張り過ぎない程度に本人が向上していくのを見守る姿勢が必要だと思います。

質問者:同じ悩みを抱える方がセロトニン道場を頼られるということでしょうか?

有田:そうですね。最初は、悩んでいる本人が来るというよりは、心配されているご家族の方が訪れてくることが多いですね。その後、本当に悩んでいる本人を連れてくることが多いですね。

質問者:ありがとうございました。悩みを抱えている方が一人でも多く、悩みを克服して元気に過ごしてもらうことを願っております。

 エビデンスについて

上記のインタビューをお読みいただき、セロトニン活性に関するエビデンスにご興味のある方は、以下の論文をご参照ください。

 日本語論文

リズム運動がセロトニン神経系を活性化させる
日本医事新報社 No.4453 (2009年8月29日) 基礎医学から

セロトニンの生理作用
金原出版株式会社 小児科 第50巻 第13号(平成21年12月1日発行)
特集:セロトニンの働きを考える

 英語論文

血液のセロトニン測定で脳内のセロトニン変動を推定できるという論文
Nakatani Y., Sato-Suzuki I, Tsujino N, Nakasato A, Seki Y, Fumoto M, Arita H.
Augmented brain 5-HT crosses the blood-brain barrier
through the 5-HT transporter in rat

European Journal of Neuroscience 2008; 27: 2466-2472.

坐禅の呼吸法がセロトニン神経を活性化させるという論文
Yu X., Fumoto M., Nakatani Y., Sekiyama T., Kikuchi H., Seki Y.,
Sato-Suzuki I., Arita H.
Activation of the anterior prefrontal cortex and serotonergic system
is associated with improvements in mood and EEG changes induced
by Zen meditation practice in novices

International Journal of Psychophysiology 2011; 80: 103-111
  
歩行のリズム運動がセロトニン神経を活性化させるという論文
Fumoto M., Oshima T., Kamiya K., Kikuchi H., Seki Y., Nakatani Y., Yu X.,
Sekiyama T., Sato-Suzuki I., Arita H.
Ventral prefrontal cortex and serotonergic system activation
during pedaling exercise induces negative mood improvement
and increased alpha band in EEG

Behavioural Brain Research 2010; 213: 1-9.

咀嚼のリズム運動がセロトニン神経を活性化させるという論文
Mohri Y., Fumoto M., Sato-Suzuki I., Umino M., Arita H.
Prolonged rhythmic gum chewing suppresses niciceptive response
via serotonergic descending inhibitory pathway in human

Pain 2005; 118: 35-42.